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Sarah Kay, 'Dreaming Boy'

文学 English Poetry in 21st Century

最近コンテンポラリーな英詩を積極的に読んでいこうと思い、ちまちまと掘り始めているのだけど、そこで出会ったサラ・ケイ(Sarah Kay)という詩人が素敵なので一篇訳してみる。相変わらず翻訳のセンスがなく、原詩の魅力を殺している点には目を瞑ろう。



1988年生まれ、見ての通り若く才覚煌めいているサラ・ケイはspoken word poetryの詩人で、「書いて読ませる」活字媒体ではなく「読んで聞かせる」パフォーマンスをメインフィールドとして活動している。そのためYouTubeを検索すれば彼女が詩を読むビデオはいくつも見つけられるし、2011年にはTEDでもパフォーマンスを行っている。

Sarah Kay: If I should have a daughter ... | TED Talk | TED.com

ここでサラが披露する'B' ('If I should have a daughter') が彼女の代表作なのだけれど、これはばっちり日本語字幕つきで聞けるので、今回は別の詩を紹介する。わたしがグダグダ付け加える前にまず聞いて、読んで(下にトランスクリプトを掲載したサイトを載せています)もらえれば魅力はわかると思うのだが、簡潔に言ってとても率直で、フレッシュで、わたしはなぜか少し泣きたくなる詩だ。

サラ・ケイ「夢見る少年」

Sarah Kay performs "Dreaming Boy" - YouTube

子ども時代の、覚えている夢ではたいてい
わたしは男の子。塔から乙女を救い出し、
あるいは特に誰かを救っていなくても、間違いなく男の子だった。

何年もの間、わたしの持つ言葉が人気者の子たちの
テーブルから投げられるクズだけだったとき、レズビアン
何よりもっともらしい説明のように思えた。

ある特定の性の自分を夢見る意味は?
その秘密を舌の下に留めておく意味は?
初めて男の子にキスしたとき、彼はとても背が高くて、唇はとても柔らかくて

わたしは何週間も海の夢を見た。手足のコントロールをまったく失って。
彼の隣では、みんなを十分納得させられるくらい女の子らしかった。少なくとも
目が覚めているときは。夜、わたしはバットマンだった。夜は、消防士だった。

夜は、男の子、男の子らしいところに筋肉があった。しっかりした手も。
走って行く方角も。初めて女の子にキスしたとき
ふたりの顔が互いのうちに溶けていくのが好きじゃなかった。

無精髭はどこ?しっかりした顎は、シナモンは?わたしは
彼女のライラックで息ができなかった。わたしはひどい高潮の森で
迷う夢を見た。わたしがレズビアンでないなら

どんな説明があり得るのだろう?
この不誠実な心を、このあり得ない渇望を、
この惨めな思いをどんな言葉で括ればいいのだろう?

初めてあなたに会ったとき、誰かが言った「ああ、やつは間違いなくゲイだ」
それはたぶんわたしにも覚えがある困惑だった。
初めてわたしたちがキスしたとき、ゆっくりいこうとあなたは言った。

わたしがあなたの胸に手を置くと、あなたはそれをどかした。
わたしは14才の子がブラを外そうとしているみたいな気分だった。
それでもあなたは一晩過ごした 隣り合って横になり息をして

わたしの手はあなたのボクサーパンツから少し離れて、布団の下でひくひく動いていた。
翌朝、わたしが授業に出ている間にあなたはベッドを整え、わたしの服を畳んでくれた。
あなたはハープを習っていて、演奏しながらわたしに歌ってくれた。

わたしの誕生日には三層のケーキを焼き、アイシングで飾るために早起きした。
わたしはあなたの胴体がシャツを着ずに、アイシングをチューブから押し出すのを見ていた。
わたしはその瞬間あなたのを愛したように、身体を愛したことはない。

あなたは学校までの道すがら花を摘み、どんな部屋にもブーケを残した。
あなたが踊ると、壁があなたに近づこうと寄りかかってきた。
わたしがついにあなたに男の子とデートしたいのかと訊ねたとき

あなたが長い、静かな一瞬、考えている間わたしは息を呑んだ。
デートしたいと思う人に出会ったことはなかったとあなたは言った。今は
君にすっかり恋してる、それでいいのなら。
そんなふうに

わたしはずっと必要だと思っていた言葉を求めなくなった。
そんなふうにどこからか手が遠い夢に向かって伸び、
言った ほらおいでよ。わたしたちには救うべき乙女がいる。

わたしが言おうとしてるのはたぶん、あなたはわたしを男の子みたいに感じさせてくれるということ。
わたしはずっとその男の子だった。夜、わたしは木に登り
カーゴパンツを履いていた。夜、わたしは建物に忍び入り焚き火をした。

目覚めると、わたしはあなたの背中に巻きついていた まるで引き出しの中の一番幸せな
大きなスプーン。あなたは裸で、深く息をしている、わたしの愛する男。わたしは
あなたをまるで贈りものみたいに抱きしめ、安心してまた夢へと沈んでいく。



Sarah Kay, 'Dreaming Boy'
Transcript from Sarah Kay's Poetry


子ども時代に見た夢ではいつも男の子だった語り手が、ジェンダーセクシュアリティの混乱を率直に語りつつ、やがて「自分が自分であることを認められる相手との出会い」にやさしく着地していく詩。ちょっと奇妙な二人のキュートな恋愛詩としても読めるし、ジェンダーセクシュアリティを通してアイデンティティを問う格闘でもあるし、また他者をカテゴライズすることの残酷を突いてもいる。比較的易しい英語で書かれていて言葉はシンプルだけれども、自分を見つめること、成長すること、他者との関係を築くことetc.にまつわるいろんな難しさが織り込まれていて、読みほぐしていくとおもしろい。それにサラの正直な声にはこれらの単純じゃない物事に聞き手をいとも自然に、すっと向き合わせてしまう力がある。



わたしが特に好きなのは、語り手が初めて「あなた」に会った時、誰かが「彼はゲイだ」と規定したことに対して「わたしもその困惑を知っている(that was maybe the confusion I recognized)」と違和感を露わにする一方で、彼女もまた彼に対して男の子と付き合いたいのかと訊ねてしまうような、そんな一筋縄ではいかなさだ。語り手自身、学校の人気者たちからレズビアンと呼ばれることに当惑し、しかしおそらく一度は、男の子になった夢ばかり見て、男の子とキスをしても夢の中の自分と現実の自分との乖離が大きくなるばかりなのは、自分がレズビアンだからだと納得しようとしている。けれども女の子とキスをしてもしっくりこないし、どんどん自分の感情や欲望が受け容れがたいもののように思えて、惨めな気持ちだけが募っていく。個人の複雑な捉えにくさを他者が一言で片付けてしまうこと、それを嘲るようにすることの意地悪さと暴力を語り手はよく知っていて、同時にそれに絡めとられそうにもなっている。だから彼女は「あなた」をゲイだとは決めつけないけれども、彼に自分への思いを確認するかわりに男の子が好きなのかと聞いてしまうんだと思う。

わたしはそれを正しいとは思わないけれど、その不完全さゆえにこの詩が好きでもある。誰しもすべてにおいて正しくはいられないから。自分も他人も曇りなく見つめることはできないから。自分のわかる言葉で、都合のいい言葉で何かを説明しようとするから。それでも語り手は「あなた」の一言(このへんの展開は少し語り手に都合がよく響くかもしれない)をアイスブレイクとしてずっと探していた自分を定義するための言葉からするりと抜け出す。かわりに女性である自分と夢の中の少年である自分との同居を、従来女性らしさと結びついてきた物事を好む男性を愛することを自然に受け容れていく。悩み、トライし、失敗し、最後に少し前に進む。それを語る詩人の声がどこまでも率直なのが清々しくて、ほんとうにすき。他にもいい詩がいろいろあるので、また機会があったら訳してみたい。

Official website is here.
Kay, Sarah (sera) | The official website for poet Sarah Kay