記事翻訳「リナ・サワヤマ、自身のパンセクシュアリティを表現する準備はできている」

Zing Tsjeng, "Singer Rina Sawayama Is Ready to Rep Her Pansexuality", Broadly


リナ・サワヤマちゃんの最新シングルはこちらから!今回も最高にギラギラしたシュガーポップでとにかく最高です(語彙力)。
Rina Sawayama - Cherry

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ニューシングル"Cherry"のリリースに際して、イギリス-日本の注目ポップシンガーが(セクシュアリティをめぐる)羞恥、カミングアウト、そしてアジア系クィアの可視化を重要視する理由を初めて語った。

ロイヤル・ボクスホール・タバーン(Royal Vauxhall Tavern, RVT)でリナ・サワヤマ(Rina Sawayama)に会ったとき、ロンドンは1976年以来の長引く熱波で茹っていた。気温はほぼ90°Fに達し、150年の歴史を持つそのパブ(ダイアナ妃が男装してフレディ・マーキュリーと踊りにきたことで知られる、ロンドンの最も歴史あるLGBTQヴェニューの一つ)は、涙目になってしまうほどの猛烈な日差しを浴びていた。

会ってみて、サワヤマ(訳注:原文ではイギリス-日本のR&Bポップシンガー)側がインタビューの場所にRVTを提案した理由がよくわかった。ニューシングル"Cherry"のリリースを控えていたときだが、彼女は別のこと、自身のパンセクシュアリティについて語ろうとしていたからだ。

「自分の経験について常に正直でいたい」と、幸いにも涼しかったパブの一角に無事身を落ち着けたところで、彼女はきっぱり言った。

『ヴォーグ』(Vogue)、『ガーディアン』(Guardian)、『FADER』(The Fader)、そしてNoiseyなどの寵愛を受け、サワヤマはまずオレンジ色の髪に、サイバーパンク風の雰囲気を持つミュージシャン/モデルとしてシーンに登場した。"Cyber Stockholm Syndrome"や"Where U Are"といった曲はこのインターネット中心の社会におけるロマンスと孤立を探究し、批評家の賞賛を得た。デビュー・ミニアルバムRINAの一曲"Tunnel Vision"では、「あなたが悲しく孤独なのは知ってる/でも100個ものタブが/わたしの心の内には開かれている(ビジネスはお断りだけど)/あなたに気づいてもらえるように*1」と囁くように歌い、ピッチフォーク(Pitchfork)はこのアルバムを2017年のベストポップ/R&Bアルバム20の一枚に選んでいる。

最新シングルは、ガツンとエモーショナルなパンチのある後味を添えた、目眩のするようなコンフェッショナル・ポップ*2の高揚とでも評すべきだろうか。多幸感あるシンセの煌めきにのって、「地下鉄を降りていくと/あなたがこっちを見てる/女の子の視線/その日/何もかもが変わった*3」とサワヤマは歌う。しかし彼女の曲の多くと同様に、ビタースイートなつかみ(マックス・マーティンが嫉妬して泣くくらいにキャッチーなフックだが)もある。"Cherry"の歌い手はクィアな欲求の高揚を感じつつ、羞恥心にも見舞われている。「満足はしているけれど/わたしの人生は/偽りのうち/感情にしがみつく/感じることに慣れてない/だって生きているって実感させられるから。*4

「90年代後半の音楽様式が大好きだし、メロディーも大好き。でも当時って露骨に【わたしとこの男の子、ああ彼にフラれた】っていうかんじでしょ?」とサワヤマは言う。「だからちょっとポリティカルにしてみたらどうだろう?って。こんなふうにカモフラージュするのが好きで。」彼女はゆっくり、思慮を巡らせながら炭酸水を一口含んだ。「間違いなくこの"Cherry"はわたしにとって最もパーソナルかつポリティカルな曲。」

サワヤマは以前はバイセクシャルを自称していたが、現在では自身をパンセクシュアルと見なしている。記録に残る形ではセクシュアリティについて語ってこなかったが、彼女は自分の曲を聴いていれば誰にでもそれは明白ではないかと考えている。「いつも女の子についての曲を書いてきたから。自分の曲の中で男の子について触れたことってない気がするし、だからそれについて話したかった。」

ではなぜ今語るのか?ポップ・ミュージックの歴史では長きにわたり女性スターたちがカミングアウトを伴わずに女と女の関係を綴った曲をリリースしてきた。例えばケイティ・ペリーKaty Perry)の"I Kissed a Girl"や、リタ・オラ(Rita Ora)、チャーリーXCX(Charli XCX)、ビービー・レクサ(Bebe Rexha)、カーディB(Cardi B)という4人のシンガーをフィーチャーし、最近賛否を呼んだ"Girls"などがある(4人のうち一人(オラ)だけはのちにバイセクシャルだと明らかにされた)。サワヤマはパンセクシュアリティに触れずともシングルをリリースできたが、彼女はこれを自身のアイデンティティを議論する機会としたかった。

「わたしからすると、まだまだリプレゼンテーションが十分じゃない」とサワヤマは言う。「わたしが自分のセクシュアリティについて居心地悪く感じていたのは、テレビにもどこにも、指差して『ママ見て!これがわたしの言ってた人!』と言えるような人がいなかったからだと思う。」

彼女の声は落ち着き、さらに思慮深くなった。「クィアとして自己認識できることは素晴らしいと本当に思っているけど、現実的には、今でもすごく恥ずかしさを感じるーー親とか、過去の経験とかから。」例えばどんな?彼女は「恥の瞬間」と称するものの最初期の例を挙げてくれた。

「8才か9才のとき、ある女の子と一緒にいて。わたしたちは、平たく言うと、キスをしていた。」彼女の母親がそれに気づき、彼女を引き剥がした、とサワヤマは言う。「母とこれまでそのことについて話したことはない、一度も。」時が経ち、女の子とデートしていると母親に言ったときは「どうしてそれをわたしに話すの?」と返されたという。

「『男の子とデートするんだ』なんて言えば、『あらいいじゃない、どんな人?』ってかんじなのに」とサワヤマは詳しく話す。彼女は日本で生まれ、5才のときに家族と緑深いロンドン北西部に移住してきた。「両親はお金を巡ってしょっちゅう喧嘩していた」と彼女は思い返す。サワヤマが10代のとき二人は離婚した。「かなりいい暮らしから、全然よくない暮らしに転じた。15才まで母と一つの部屋をシェアしてたから。」サワヤマの母はインテリアデザイナーとして自身の事業を興し、非常に厳しい職業観を持っていたという。「午後10時に寝て、午前2時に起きて一日中働いてた。」

両親の別れによるストレスはサワヤマを読書へと向かわせた。「とにかく超オタクになった」と彼女は言う。「本による自助だよね。」彼女はケンブリッジ政治学・心理学・社会学を学んだが、大学社交クラブのポッシュな女の子集団からのいじめをほぼ絶えず受け、「自殺したいほどの抑うつ」に陥った。

「在学中はずっと、自分が誰よりも醜いやつだと感じてた」とサワヤマは大学について語る。「とにかく醜くて、とにかくーー性的な意味じゃなくーー望まれてないと感じてた。本来そこにいるはずじゃないっていうかんじ。いていいはずなのに、まるで自分が数字みたいだった。」

ケンブリッジといえばエスニシティと階級の双方において多様性に欠くことで悪名高い。新しいデータでは、同大学の5つに1つのカレッジで2012〜16年の間に受け入れた黒人学生は10人を下回っている。60%を超える学生が白人のイギリス人で、その多くが(もちろん全員ではないが)イギリスの上流私立校から選り抜かれている。「ずっと『あれが知の頂点、ケンブリッジだ』と言われ続けて」サワヤマはこう続ける。「実際辿り着いたら、『わあ、なんて荒涼としてるんだろう』っていうかんじ。」

しかし憂うつの中にありながら、彼女はどうにか地域のLGBTQヴェニューの一つ、カウ(the Cow)で自由を見出した。「いつもカウにいた」と彼女は言う。「ケンブリッジはある意味ではわたしを変革させた。あれがわたしが初めて通うようになって、とても居心地よく感じたゲイナイト(イベント)だったから。」サワヤマはクィアな友人たちと小さなサークルを作った。「わたしたちはみんな大学で辛い時を過ごし、隅に追いやられていた。」親友のトム・ラスムッセン(Tom Rasmussen)は、のちにエディンバラ・フリンジを圧巻したドラァグ一座に発展したデニム(Denim)というドラァグ・イベントの共同創始者になっている。

サワヤマは現在男性と付き合っており、 異性愛関係にある状態でパンセクシュアルであると公表することがもたらす影響についてじっくり注意深く考えてきた。しかし、だからこそ彼女は"Cherry"を書きたかったのだ。「多くのバイやパンセクシュアルの人が異性愛関係にあるとき自分は真にクィアじゃないと感じていて、この曲はそのことについて歌ってる。」

今でもストレートを装った*5関係にあるLGBTQの人はパレードに来るべきではない、あるいはまったくもってクィアな空間にいるべきではないと主張する声は大きい。しかしSlateのライター、ダナ・シタール(Dana Sitar)が指摘するように、「わたしのパートナー抜きでしかわたしを受け入れないというクィアな空間はわたしのすべてを受け入れてくれていない。それは男性を腕に抱いている限りはわたしのクィアネスをまるで無視するほかの世界となんら変わりない。わたしはやっと自由にゲイでいられるーーほんとうのわたしを犠牲にすれば。」

サワヤマはすかさず彼女が経験してきたバイフォビアはホモフォビアやほかの身体的暴力をもたらす差別とは異なると強調した。ときには自分自身が最悪の敵になるのだ。「本当のことを言うと、このシングルを出してカムアウトすることにものすごく神経を悩ませた」と彼女はためらいがちに話した。「つまり、バイフォビアは真にわたしの内にある。なんでこんなことしてるの?いいじゃない、こんなことしなくても…というかんじで。でもいや、わたしはこの話をしなきゃ。わたし自身を表に出して、心配しなくていいんだって。だってたくさんの人がこういう感情を経験してるんだから。

サワヤマがプレッシャーを感じるのはもっともだ。西洋のポップ音楽界に身を置く日本-イギリス女性として、彼女は非常に明確な、独自の路線を切り開いている。00年代前半のR&Bシンガー、ココ・リー(Coco Lee、"Do You Want My Love"で有名)以外に、このジャンルで継続的な名声や成功を収めた東アジア系女性はほとんどいない。母国韓国ではKポップのスーパースターであるCLのようなシンガーさえアメリカ進出には苦戦してきた。

しかし潮目はゆっくりと変わってきているようだ。ミツキ(Mitski)、ヘイリー・キヨコ(Hayley Kiyoko)、イージ(Yaeji)といった新進のミュージシャンたちは皆異なるジャンル(それぞれインディー・ロック、堂々たるスタジアム・ポップ、ハウス)で活動しているが、若くマルチカルチュラルな感性を持った世代のファンに支持されている。

私たちの面会がCrazy Rich Asians(ほかと表記を揃えるなら邦題『クレイジー・リッチ!』を先に持ってくるべきですが。理由はみんなわかるはず)のプレミアの2週間前だったのも意義がある。

「この前イージと遊んで、この話をした」とサワヤマはアジア系、より具体的に言えばクィア-アジア系音楽のニューウェーブについて語った。「わたしたちは自分たちの空間をすごく守ってる。誰と契約するか、誰を通してリリースするか、誰と仕事をするかまで。わたしたちにとっては本当に重要なことだから。クィアなアジア系としては、わたしたちのような人は多くないし、正しくやり遂げたい。」

彼女のファン層、あるいはその言い方に倣うならピクセル(Pixels)の多くは、クィアかつ/またはアジア系であり、カムアウトすると決断したときサワヤマは当然ファンのことを考慮に入れた。「わたしは自分をストレートウォッシュ(非クィア化と仮訳してみる)*6してアジア系と称したくない。単に"アジア系"ではなくて、クィア-アジア系を表象していることがわたしには重要。そうでなければわたしのある一面がごっそり剥ぎ取られてしまうから。」インスタグラムのいいねからシタロプラムの処方箋まであらゆることを歌うなかで、このことに触れることはこれまでなかった。

「ポップ・ミュージックで世界をクィアにしていくことができると思う」とサワヤマはつけ加える。「トロイ・シヴァン(Troye Sivan)とかヘイリー・キヨコとかカムアウトした最高のミュージシャンたちがいるでしょ。それが集合的な力になって、クィアネスをメインストリームに浸透させていけると思う。地中深くに埋められてしまうんじゃなくてね。」

いまやサワヤマがその列に肩を並べていることを思えば、それは長くはかからないと私は思う。


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ということで、とてもいいインタビュー記事だったので曲と合わせて紹介したく翻訳してみました。歌詞も訳してみようかと思ったけど意外とこっちのが難しい。。"Cherry"はセクシュアリティについての曲なんだけれど、同時に非常に日本的・日本オンリーなアイディアであるところの「桜ソング」「桜モチーフ」へのパロディにもなっているように感じます。リリースに際して、リナ氏はinstagramで自身のことをa queer jaPANese cherry blossomと称していて、つまりこれはクィアな桜ソングでもあるのかななんて。

翻訳は最後のほうかなり自信がなく、かつLGBTQ関連の用語は訳をあてるのが難しかったので、誰かもっとわかる人がいたらご教授願いたい。。まあでもわたしの訳の質はさておき、偶然にも今日はリナ氏の誕生日だそうなので、みんな"Cherry"を聴いてお祝いしましょう🍒

*1:I know you're sad and lonely / But I got one hundred tabs / Open in my mind but closed for business / Just so you're aware

*2:原文confessional pop。confessional poetry(告白詩)と同じような意味合いの言葉かなとは思うが、コンセンサスのとれた定訳はあるのかしら?

*3:Down the subway / You looked my way / With your girl gaze / That was the day / Everything changed

*4:Even though I’m satisfied / I live my life / Within a lie / Holding on to feelings / I’m not used to feeling / Cos ooh they make me feel alive.

*5:原文straight-passing。passingは人種の話題でも登場する日本語にしづらい概念である。社会的な承認を得る、"パス"するための行為。これも日本語の定訳ってあるのだろうか?

*6:原文straightwashも日本語にしづらい。。whitewashと同構造の語。straight-passingにも近い?