My Best 10 Cinema Experiences in 2017 / 2017年劇場公開映画 私的ベスト10

新作鑑賞数がとても少ないし、ちまちまNetflix限定を見ていたりするので、はてさて昨年の映画ベストはどうやって出そうかなと思っていたんですが、昨年映画館で見た作品の半券をベスト入りするかしないかで適当に仕分けしていたら、ちょうど10本ベストに選出したいものが集まったので、今回は劇場公開作に限定して私的ベスト10をご紹介しようと思います。ランキング作るのはめんどくさかったので、シンプルに鑑賞順で。

ちなみに選出の基準は、作品の完成度や自分の好みに添うかよりも、「昨年このタイミングで見て、自分の中で発見や驚きがあったかもの」なので、なかには好きだけど引っかかる点が少なくない映画もあるし、以下のコメントも作品によって長さや熱量が違うと思うけれど、それと好きの度合いに相関はあまりありません。それとネタバレはないと思うけれど、テーマに触れたり、全体を通しての考察めいたものを書いたりはするので悪しからず!

  • 『未来を花束にして』 Suffragette

邦題発表時にかなり話題になりながら、いざ公開されると意外と反応が静かだった気がする本作ですが、わたしにとっては上半期のベストでした。

20世紀初め、イギリスで起こった女性参政権運動。その指導者的存在だったパンクハーストなど有名な活動家に焦点を当てるのではなく、あくまで活動の最前線でデモの列をなして警察と衝突し、地べたを這った歩兵たちの闘争を撮ることに徹した、ゴリッゴリに硬派な映画。同時に、「街を破壊でもしなきゃ男たちは見向きもしない」と非常に好戦的な女性活動家たちを描きながら、男性の描き方もフェアなのがいい。例えば、主人公モードの夫サニーは男としての夫としての体面を保つことに囚われ、苦悩する。あるいは、活動を取り締まるスティード警部はモードに再三「お前は活動の駒でしかない」「使い捨ての歩兵だ」と忠告するのだけれど、組織(警察)のために駒となって動く点は警部も変わらず、彼のモードへの言葉はすべて彼自身に返ってくる。ここでのモードの返答のかっこよさといったらーー「歩兵であるのはあなたも同じでしょう。」彼女は自分が歩兵であることを否定はしないんだけれど、同じくそれを自覚しながら権威と秩序を保守するための駒として回収されていく警部とは対照的に、反乱の活動の駒となることを自ら選ぶ。まるで「使い捨ての存在だろうとも、何のために散るかくらい自分で選べるでしょう」と言わんばかりに。連隊を示す花をつけた帽子をはじめとする衣装も、モードを演じるキャリー・マリガンの片方の口角だけ上げる不敵な笑みも、最高にかっこよくて、とにかくかっこいい映画。(語彙力)


  • 『ムーンライト』Moonlight

皆さんそうだと思いますが、すごく公開を楽しみにしていた映画。Who are you?ではなく、Who is you?のお話。「あなたは誰?(Who are you?)」と問われれば、わたしの名前は〇〇で、仕事はあれこれで、どこそこの出身で……適当な回答を出せるけれど、「あなたとは何者?(Who is you?)」と目の前の人に尋ねられたら困ってしまう。だってそんなの、わたしもほんとにはよく知らないんだから。

見ていて真っ先に想起したのは、同じくアメリカ社会における黒人のステロタイプとそこからはみ出す(に決まっているのだが)個々人のselfを扱っている『DOPE/ドープ‼︎』。しかし、こちらが10代を主人公にしてアイデンティティの模索を描いた文字通りの青春映画だったのに対して、主人公シャロンの子供時代〜学生時代〜大人までを描いた『ムーンライト』はさらに一歩踏み込んで、「結局自分が何者かはいくつになってもわからないんだ」という結論に至っている。だから最後まで主人公シャロンを「彼はこういう人間です」とは言わない、その誠実さ・優しさ。人種のステロタイプジェンダー規範の呪縛を破ろうとする映画だけれど、じゃあ周りに押し付けられたのとは違う「本当の自分」を明確に打ちだせるのかといえばそれも違って、自分を決めるのは自分、でも自分にも自分のことはよくわからないし、突き詰めれば、よくわからないままの自分をただ生きることがどうしてこんなに難しくなってしまうのという、そんなことを描いた作品だと思う。だからこそ紛れもなくパーソナルなシャロンの物語なのに、すべての人の物語になり得る普遍性と政治性がこの映画にはある。


……っていうかですよ、子どもの頃好きになったちょっとやんちゃな幼なじみがアンドレホランドに成長してたらですよ、それはもうちょっとずるすぎると思うんだよね。


こちらはちゃんと感想を書いているので、よかったら読んでください。

人生を物語れ/『T2 トレインスポッティング』 - Who's Gonna Save a Little LOVE for Me?

月並みですが、本当にこれほど完璧な続編映画というのもないと思う。Choose life. やけっぱちな希望と絶望をないまぜにしたこのフレーズは、今「選べなかった人生」となって返ってきた。それでもどうやらまだ人生は終わらないから。あと30年どうにか生きなきゃいけないから。

その30年を生かすための力はたぶん「物語」なんだ、と答えを見出していく終盤が好き。人生は選べなかった。ならば選べなかった人生を語れ。この20年、そしてこれからの30年の語り手として彼の存在感が大きくなるとは予想していなかったけれど、一作目から彼にはその資質があったのだなあ、と振り返って思う。(上の記事を読んでね)


  • 『スウィート17モンスター』The Edge of Seventeen

2017年、映画納めは『勝手にふるえてろ』だったんだけれど、こちらの主人公ヨシカが『スウィート17モンスター』の主人公ネイディーンにちょっと似ていた。つまり、自分は世界を一歩引いたところから見渡せていると思っていて、世の中みんなくそやろうで、でもわたしが一番残念なはみ出し者で(だから特別で)、だからわたしなんて後ろに引っ込んでたほうがいいですね、、、っていう。あれ、なんだろう、これわたしかもしれない。

そんな自意識を拗らせに拗らせたネイディーンが、友情にひびが入ったり、恋愛に興味をもって危なっかしいことをしたりと、いろんなやらかしを経て成長していくお話なのだけれど、背景にある倫理観がとても健やかで好ましい。それを支えているは、ウディ・ハレルソン演じるハイスクールの先生(好演!)、ネイディーンの兄、彼女に好意を寄せるアーウィンといった男性キャラクターたちで、彼らの背骨の倫理観が真っ当なので、ネイディーンがどんなにはちゃめちゃして失敗してもどこか安心して見ていられる。そんなふうに女の子が安全に冒険し成長できる映画ってすごくいいなあと思う。

また、これはネイディーンの物語だけれど、同時に彼女以外の人々の物語でもある。舐めてかかっていた先生には父や夫としての顔もあるし、リア充な兄貴だっていつも自慢の息子であることのプレッシャーを感じているし、母親も一人の人間で、娘と一緒にいくつになっても成長していくものーーそうやって誰にでも事情があることを知り、自分以外に目を向けることがネイディーンの成長の一歩目になるから彼女だけの物語にはなり得ない。そこがよかった。


正直もうマーヴェルの諸々にはまったくついていけてないし、前作はさほど思い入れがなく、今作も引っかかるところはあるよなあと思いつつベストに入れたのは、ある一点にとても嬉しくなったから。

その一点というのは、「父になる」ことについての物語でありながら、神話世界の父権主義には思いっきり中指を立てているところ。カート・ラッセル演じるエゴは様々な種族の女性と関係を持ち、理想の楽園を創り出す、まさに神話的な父/創造主として描かれているのだけれど、その名がまさに「エゴ」であるように、本作はそうした父権主義あるいは父権主義的な知性を、独善的で帝国主義的で、つまりはクソ喰らえだわと真っ向から否定している。だからこれは父性の映画であって、父権の映画ではない。神話の男性中心主義を解体するという点では『モアナと伝説の海』に通じてもいて、GotGシリーズはいろいろ危なっかしいところはあれどやっぱりモダンなのだなと思った。

あとOPが大好きすぎて、夏に旅行に行ったとき機内でずーっとそこだけリピートして再生していました。ベイビーグルートと一緒にダンスしたい。


  • 『メッセージ』Arrival

こちらは下の記事で言いたいこと全部書いているので、ぜひ読んでください。

映画『メッセージ』と、言葉、詩、物語 - Who's Gonna Save a Little LOVE for Me?

「時間と言葉/物語」というのが昨年わたしの中で一つ大きなテーマだったので、そういう映画や詩を特に好んで鑑賞していました。人間の不可能性や限界を突きつけるものとして古来から捉えられてきた「時間」に対して、人間の可能性や創造力である「言葉」あるいは「物語」は、時間を超えて人間を無限の領域に連れていってくれるものなのか、はたまた時間に縛られ、結局は人間の無力を証明するだけのものなのか。詩人やあらゆる表現者たちが、その狭間で揺れながら様々な答えを模索してきたけれど、この『メッセージ』もある一つの答えを提示してくれている。

それとジェレミー・レナーの美しさが昨今では特に際立っているので、それだけでも見る価値がある映画。久しぶりに見惚れてしまったよ。。


iPodで音楽を聴くということは、毎日の生活をサントラ化すること*1、プレイリストをカスタマイズすることで日々の一分一秒をカスタマイズすること。ちょっと歩いてコーヒーを買いに行くだけでも雰囲気や気分にあった音楽をプレイしたい。いろんなシチュエーションで、それに相応しい音楽を聴きたい/持ち運びたい。iPodはそれを可能にしてくれる。イヤホンを挿せばいつでもどこでも「自分だけのサントラ」が再生できる。

けれども、本当は生活のすべてを好きなようにカットして、エディットして、カスタマイズすることはできない。イヤホンはいつかどこかで外れてしまうし、人生には巻き戻しボタンも一曲戻るボタンもなく、一度汚れた手はそう簡単にきれいにならない。そういうことを、本当はまだ「ベイビー」なのに犯罪の世界に放り込まれ、自分の腕一つでどうにかするんで僕には構わないでくれてけっこうですよ、というおませな主人公(アンセル・エルゴートくんのベイビーフェイスがかわいい!)が知っていくビルドゥングスロマン。ラストバトルが"Brighton Rock"なのがQueenファンには嬉しかったね。これもGotG vol2と同じくOPをエンドレスに再生できる映画。


この10作で順位をつけるのは難しいのですが、本当は一位だけ決まっていて、それが『ダンケルク』なのです。クリストファー・ノーランの作品はだいたいどれも好きなんだけれど、年間の一位に選ぶほどのものはこれまでなかったのですが、これはやられてしまいました。

その理由の一つは、クリストファー・ノーランが常に「時間」とそれが人の意識にどう働きかけ、影響を残し、プリズムを形成するかといったことを探究している作家であり、それが時間と物語というわたしの昨年のテーマにうまいこと合流して、いろいろ考察を深めさせてくれたからだと思う。

『メッセージ』をはじめ、わたしがブログ・ツイッターで紹介してきた時と物語にまつわる映画や詩では、概して時間は過去から現在へ流れ過ぎ、人間の有限性を示すものであるのが前提になっているのだけれど、ノーランは時を「主観的に感知/認識される概念」として扱っている。どんな出来事もそれを体験したり目撃したりした人の主観によって認知される経験となり、それぞれの経験はそれぞれの視点や立場によって異なる多元的な時間世界(≒記憶)の中で広がりながら時おり収斂される。そこで描き出される物語、というよりロマンを、ノーランは追い求めている気がする。

本当はきちんとブログ記事にまとめていられたらよかったんですがタイミングを逃したので、以下ふせったーなどから切り貼りですが、ご参考程度に。

@Dktnianさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー)

@Dktnianさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー)

@Dktnianさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー)

Moooh(百) on Twitter: "ダンケルク。2ケルク目でわかった(し、誰かご指摘済みかもだ)けど、これ潮汐についての映画だったんだね。潮が干いては満ちるを繰り返すように、この映画には行くか引くかしかない。"

This film is dedicated to all those whose lives were impacted by the events at Dunkirk.

この映画を、ダンケルクでの出来事にその人生・生活が影響を受けたすべての人々に捧げる。

冒頭の献辞が非常にノーラン映画らしかった。この映画が捧げられているのはあの時ダンケルクにいた人だけではない。イギリスのどこかで兵士の帰りを待っていた家族、物資を支援した人々、もっと言えば、ダンケルクを生き延びた兵士の子孫や、さらには今こうやって日本の映画館でスクリーン越しに映画を見ているだけのわたしたちだって、ある意味では「ダンケルクでの出来事に影響を受けた」者だ。ダンケルクというフランスの街で行われた世紀の救出作戦が、あの時どのように人々の意識に刺さって根を張り、また外へと波及して、今に至るまで記憶のプリズムを分岐形成しているのか。そうした経験としてのダンケルクを描いた本作は、戦争映画というより戦争体験にまつわる映画だと思う。

…….こう小難しく考えずとも、とりあえず『インセプション』以来のイケメンハンターぶりを発揮してくれたノーラン先生に感謝しながら、ひたすら暖かそうな英国産ニットを愛でたり、真っ白い食パンに苺ジャムを塗り、マグにたっぷり紅茶を用意してダンケルク飯ごっこをしてりするだけでも楽しい一本です。


  • 『ゲット・アウト』Get Out

これはあんまりうだうだ書いちゃうとおもしろくないのでとりあえず見てください!それでもし気が向いたら下のリンクも読んでみてね!くれぐれも映画を見る前には開かないでね!

@Dktnianさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー)

@Dktnianさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー)

恐怖はどこからやってくる?(無)意識とアメリカン・ゴシック/Emily Dickinson, 'One need not be a chamber to be hauted'(少しだけ映画『ゲット・アウト』) - Who's Gonna Save a Little LOVE for Me?


ポスターにもはっきり記された、"Based on a true story"のフレーズ。実話に取材した映画ならばお決まりのこのフレーズに、本作ほど重みを持たせる映画も他にないだろう。これは「実際に起こった出来事・事実」に基づく話。それは、ホロコースト否定論を巡る裁判が実際にあったというだけではない。それは、ホロコーストは歴史的事実であること、その事実を否定し、生存者たちの尊厳を損ない傷つける動きがあったこと、事実を事実だと証明するのに裁判をするのはおかしな話かもしれないけれど、それを否定する者たちから守るために闘わなければならなかった/ならないことを、今一度明らかにする、そんな映画の清潔な態度を示した重要な言葉。

事実を嘘から守る話なので、法廷劇ではあるけれど、肯定派/否定派二者の駆け引き、どちらが勝つか、といって法廷のサスペンスは念入りに避けられていて、むしろ映画の焦点は尊厳とリプレゼントの正解なき問いに当てられている。誰のために誰が行う裁判なのか。実際に傷つけられ、権利が保障されるべき人の尊厳を守るには、どのような形で彼らはリプレゼント(表象/代表)されるべきなのか。そこにはっきりした正解はないけれど、時に「自分の良心を他人に受け渡し」、我慢をして、チームで闘うことも必要だという映画の結論は正直であり現実的であり、でもとことん真面目で誠実であった。

ダンケルク』以来みんな大好きなジャック・ロウデンもいい役で出演しています。

なにせ法廷では常にレイチェル・ワイズ演じる主人公デボラの横に座っているからね!ポストイットを加えつつページを繰るジャクロが見られるよ!


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以上、2017年劇場公開作のベスト10でした。他にも『ローガン・ラッキー』とか『アトミック・ブロンド』とか『ラビング 愛という名前のふたり』とか見た映画だいたいどれもよかったんだけれど、自分的にこれは!というワンダーの瞬間があったものを選びました。毎年言ってるけど今年は鑑賞数増やして、最近全然活用できてないNetflixでもいろいろ新しいものを見つけたいなあ。

*1:エドガー・ライト自身がそう言っているんだけれど、リンクの動画が切れてしまってたんで見つけられたら載せます。