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Sarah Howe, 'Tame'(2017年1月①)

昨年秋に購入してからなかなか読めていないサラ・ハウ(Sarha Howe)の詩集Loop of Jade(2015年のT.S. エリオット賞受賞作!)より1篇訳してみたいと思います。本当は最後まで読みきってからレビューしようと思ったのだけど、それだといつまでかかるかわからないので。わたしの訳でどこまで伝わるかわかりませんが、物語の展開力が凄まじい詩です。

Loop of Jade

Loop of Jade

サラ・ハウ「従順」


「娘よりもガチョウを育てる方が益になる。」
ー中国の諺


これは木こりの娘の物語。生まれたとき、ベッドの脇には灰の箱が置かれていた、

万一に備えて。赤ん坊が産声を上げる前に、彼はその顔を灰に巻き込み、押さえた。過多の出血で弱りながら

新生児の母は彼の手を止めようとした。彼は庭に彼女を引きずり出し、いつもの枝で

彼女を鞭打った。それが森の魔法であるなら、人々は決してそうは言わないけれど、しかし彼女は変身した



傷痕の波打った背は、鞭の下で、硬い外皮になり、裂けて樹皮の覆いになった。平伏した膝は

砂っぽい地面を掘って根を張り、水を求め、労働の染み入った指先は伸びて

枝となった。その木ーライチの木をー彼はまるで妻のように呪いつづけたーその無益で貧弱な

果実を。一方、少女は生き延びた。仄白い灰の産毛をつけ、顔をぐっと丸め込んだ、小さなガチョウの雛。



彼は彼女をメイ・ミン、名無しと呼んだ。彼女は話し方を習わなかった。その人生は父の悲しみに傷つけられた。

嘆きには力があるからー顧みられることのない対象にとってさえ。彼は娘を井戸に

落とすべきだったのだ。それなら少なくとも忘れられた。時折彼が仕事に取り掛かり、斧を持ち上げ、

弧の真っさらな清潔さを眺めていると、娘は彼の肘に頭突きをしたー何度も、何度もー落ち着きなく



怒りに達し、彼が彼女を振り払うまで。しかしこの無言の申し立てに意味があるのかは、どちらにもわからなかった。

子の唯一の慰めはライチの木の下で寛ぐことだった。揺れる枝が

言葉のない眠り歌を彼女に囁いた ライチは用心深く見つめ、頭上を野生のガチョウが往来していた。

果実と、ガチョウと。彼らは娘の成長を記録していた。彼女は鳥たちに加わることを熱望はしなかった、熱望が



盲目の本能を超えた意志を示唆するなら。秋が深まったとき、彼女は首を遠くまで伸ばした、ガチョウたちが

雲のかかった丘の間を旋回するのを見ようとしてー首は伸び続けたー口ばしになるまで。桃色のつま先は

水かきと爪を生やしはじめた 無力な腕は羽となり力を持った。ガチョウの娘は

飛び上がって矢のような群れに加わった 一つの目的と傾向によって

繋がった者たち、彼女は彼らの向かう先を知っていた



そして彼らの求めも。彼らは一年以上、空を渡った、しかしどこへなのかーどのツンドラの荒野を渡ったのかー

わたしは聞いたことがない。物語はそこで終わるという人もいる。しかし野生のガチョウの行く道を知る者は

帰る義務も知っている、最初に暮らした場所へ戻る義務も。さあこの話を完成させよう。春のおわり、木こりは

庭に飛び込んだガチョウを罠にかけるーまるで知っていたように。筋の張った首を掴み



肉切り台に、ライチの幹から切り落とされた十字の木に押し付ける。一撃で。益は、損失になる。




the original text is from Sarah Howe - Poems.

"Let this suffice"(さあこの話を完成させよう)から一気に糸を手繰り寄せる圧倒的な展開力にわたしは度肝を抜かれたんですが、いかがでしょうか。非常に酷なお話なんだけど、甘い解放の夢想で終わらせずに簡単じゃない現実を見せつけつつも、女性の犠牲をロマンティサイズすることもなく、酷い暴力や出口の見えない家父長制に対する納得のいかなさを滲ませながら素晴らしく制御された筆致で物語を語り切っていて、なんていうかとにかく凄い。

また、この詩を読んだ後にハン・ガンの小説『菜食主義者』を読んだんだけれど、あの小説で見られる女性への暴力や抑圧、それに対して植物化していく女性の表象なんかは、この詩の冒頭で描かれる母のライチへの変身を思い出させた。たぶん『菜食主義者』を読んだ人にはなんとなく言わんとしてることが通じるんじゃないかと思うんだけど、どうだろう。現実のわたしたちが植物化していくことはないけれど、これらで描かれた暴力や、もう植物になってしまいたいと肉体も心も外皮に覆われて閉ざされていく感覚は決して他人事ではないとわたしは思う。


ほんとはもっと考えるべきことがある詩だと思うんだけど、わたしの頭が回らないので(たぶん寒すぎるのも一因だし、サラ・ハウの詩は正直かなり難しい)とりあえず紹介するに留めておく。今年はできるだけ多く、コンテンポラリーな詩を紹介したい。